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青木昌彦「私の履歴書」

 投稿者:*鬼薔薇  投稿日:2007年10月18日(木)01時51分45秒
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  毎朝の日経を楽しみに読んでいるのですが、スタンフォード大で助教授に採用が決まった頃を回想している今(昨)朝(第16回分)の記述には特に興味を惹かれました。学位論文を用意する時期、シカゴ大教授だった宇沢弘文さんの誘いでMITの院生のワークショップに参加した青木さん、そこでジョセフ・スティグリッツと出逢っているのですね。「まだ二十代前半だったが、後にノーベル賞受賞理由となった『情報の非対称性』の理論のアイデアをすでに議論していた」とのこと。う〜ん、独創的な仕事はだいたい20代半ばにその基本ができているのでしょうか。そう思って左翼系を考えてみますと、マルクスの「ヘーゲル批判」、レーニンの「市場理論」、ヒルファディングの「金融資本」理論、いずれもそうですし、日本でも武谷三男「技術論」や、それどころかクロカン先生の「へとマ」だってそのうちに数えられたよろしいのかもわかりません。

スティグリッツといえば日本では「反グローバリズム」の啓蒙家と思われているようですが、本業に着目すれば主著は何といっても『新しい金融論』 でございましょう。ここでも高望みさんからご紹介のあったこの書、“信用と情報の経済学”という副題が示すように、これこそ青木さんが出逢った頃の若きスティグリッツのアイデアが結晶した作品なのでしょうね。

高望みさんには、この現代理論とヒルファディングの古典的理論を止揚するという野心的な問題関心も併せてうかがいました。素養のない門外漢のわたし、この高度な理論書の解読などもちろん叶いませんが、一般向けの紹介書 を読むだけでも、これが二十世紀末から露わになった資本制の変質というすこぶる現代的なテーマに関わることはストレートに感知されます。

この「変質」を一言でいうなら、実体経済からの「金融」の“離陸”とその自己運動が実体経済に及ぼす作用でございましょう。それはまた「資本」が「国民国家」の拘束から自由になることを強く含意いたします。1971年ニクソン・ドクトリンで基軸通貨たる米ドルは「金」との最後のリンクを断ち、戦後世界経済を規定してきた固定相場制が終了、「価値尺度」なき変動相場制へ移行して35年余を経たわけですが、90年代アメリカの「ニュー・エコノミー」に花開き、近代資本制の基礎構造だった株式会社制度をも(エンロン事件にみるとおり)食い破るまでに至ったこの変質は、価値尺度」なき変動相場制の浮動性を基礎に、情報・通信インフラの驚異的な高度化を技術的条件として現実のものになったと言えましょう。けれども、変質そのものは技術的条件よりも本質的なところに根拠をもっているにちがいございません。言い替えるなら現代資本制に対する批判は、「格差」とか目につく現象をあれこれ拾い集めるだけでなく、この“本質的なところ”へ踏み込んでこそ「批判」の名に値する、そんなテーマのはずと思います。「貧困」は「豊かさ」と表裏に位置しているとすれば、ふたつを刺し貫く視点が求められるはずでございましょう。

それは現代資本制の創り出す「実」と「虚」にかかわり、たとえば伝統経済学での「価値」と「価格」とか「信用」といった基礎カテゴリーを再定義することとなるのでしょうね(共産党の不破さんが折に触れて「信用理論の重要性」を口の端にのぼせていることも意識の片隅に引っかかってございます)。この点、近年の原油や穀物、貴金属など市況商品の異常な価格高騰を導いている「先物取引」、あるいは不動産や電力の「証券化」といった現実が目前で解明を求めていると感じますし、経済主体であるはずの「企業」がひとつの「商品」となって取引される昨今のM&Aの動向も見逃せません。このような現代を解明すべき理論がどのような姿に彫琢されるのか、ヒルファディング理論を下敷きにしたレーニン『帝国主義論』の「金融寡頭制」像がそうであったように、「経済」プロパーとはいかず「政治権力」の領域を織り込まざるをえないのでしょうけど、むづかしそう。専門研究者のお仕事に期待するといたしましょう。

あらま、青木さんの話にはなりませんでしたね(^^)ヾ。
 

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